【時計職人に聞く】Part.7 機械式時計の精度の秘密。
【時計職人に聞く】Part.7 機械式時計の精度の秘密。
時計を使う中ではいろいろ気になるポイントがありますよね?
例えば、雨の日。
ダイバーズモデルや防水性の高いモデルに関しては水しぶきなんか全然気にしないよ~。という方も多いと思いますが、中には日常生活防水で、オーバーホールもだいぶしていなかったりちょっと長く使い込んでいるしなぁ…。でもまぁ、このぐらいの雨なら腕にしていて濡れても大丈夫かな?とか天候によっては気になる方も多いのではないでしょうか。
または、磁気帯びが気になるんだよね~と家電製品の近くには時計を置かない方もいらっしゃいますよね!
防水や磁気帯びに関しては日常生活の中で自分自身でも気になることが多いポイントですが、今回は時計の心臓部に耳を澄ませてみたいなと思います。
第7回のお題目は以下の通り↓↓
【時計職人に聞く】Part.7 機械式時計の精度の秘密。
1.時計のチクタク音はどこから聞こえる?
2.プロが見るメンテナンス。
3.測定器(タイムグラファー)の波形って…
4.「歩度調整」(ホドチョウセイ)ってどんなことをするの。
1.時計のチクタク音はどこから聞こえる?
機械式時計の醍醐味の一つとしては、購入して、家に帰って、初めてゼンマイを巻き上げると初めて聞こえるその「チッチッチッ」という音。
なんか命を吹き込んだ感じしませんか?
「これからこの時計と頑張るぞ!!」といったモチベーションが心の底から沸き上がってきますよね。
では、その音は一体なんの音で、どこから聞こえてくるの?
って疑問に思ったことはないですか。
2.プロが見るメンテナンス。
実はこの「チクタク」音は時計修理のプロが良くチェックするポイントでもあります。
時計のケースを開けたりムーブメントを実際に分解することなく、時計の状態が良いのか悪いのか?
もし、何か調子が悪い場合はどの辺に原因がありそうなのか?
これが音で分かっちゃうんですね~プロは!!(ホントですよ!)
私たちゆきざきの修理部門においても、それぞれの技術スタッフのデスクにはこの音を聞くための機械(測定器)があります。
実際には時計を耳に当てて時計の音を聞くことはあまりないですが、
この作業のことを「歩度測定」といいます。
歩度測定という工程は、時計修理の工程において必須の作業でもあります。
たとえ超音波洗浄機が無くとも、この測定器だけはないと満足な修理ができないと言われるほど重要な機器になります。
この測定器は各国で発売されていていますので、ちょっとその呼び名をご紹介しますね。
・チッコ・プリント(ドイツ製)
・ビブログラフ(スイス製)
・タイムグラファー(日本製)
・スターブラフ(日本製)
・ウォッチマスター(アメリカ製)
基本的には時計から発する「チクタク」音(テンプが振動するときに脱進機やそのほかの部分のパーツがぶつかったりする音)を機器についているマイクで拾ってその音を増幅する。
↓
その音の波形を紙に印字することで可視化する。
もしくは、デジタル液晶に波形として可視化する。
↓
そこに現れた波形を見ることで、こんな症状が出ているのではないか?と推測できる。
とまぁ、こういう理屈になっているわけであります。
大きく分けるとこんな感じで使っています。
1.単純に時計の進みや遅れの具合を見る。
2.自分(時計修理技術士)の作業に問題がないかどうかの確認のため。
3.テンプの振り角などを微調整することで、より精密な動きを出すため。
内部パーツの参考イメージ
それでは、実際にどんな波形からどんな症状を想定しているのかについてみていきましょう。
3.測定器(タイムグラファー)の波形って…「
>>>>>>>>>>>>計測中のface写真。
(タイムグラファー)
実際には見たことが無い方も多いと思いますので、測定器の基本的な見方をご紹介したいと思います。
下記の図はタイムグラファーとは少し違うのですが、表示している内容は同じです。
タイムグラファーは左から右に進んでいきますが、下でご紹介する図は上下に見てください。
【症状1】
上の画像には2本の波形が見えます。一本は規則的に点が並んで記録されている軌跡で、もう一方は少しバラつきが大きく記録の点が散らばって見えます。この波形から推測される症状は何だと思いますか?
この場合に予測される現象としては、脱進機に何かしらスムーズに動かない現象があるということです。例えば微細な埃が付着しているとか、ガンギ車とツメ石でのかみ合わせにほんの少しだけズレがあって停止がきちっとされていないなどが推測されます。
【症状2】
2本の線の連続の一部に間隔が急に膨らんでいる部分が見て取れます。この場合にはどんな現象が起きていると考えられると思いますか?この場合は、テンプの振り角に何かしら異常があると思われます。この膨らんで打点が記録される場合は、主にテンプに片振れがある場合です。テンプの振り角が膨らんでいる部分ではテンプの振り角が小さくなったことを表してます。
【症状3】
こんな記録がされる場合もあります。この場合は【症状2】の派生型とも言える現象でテンプの動きに振り当たりと呼ばれる症状が出ているときに見られます。これはテンプの動きの中で一部に何か接触が起きているときなどに、その直後の動きが加速っされる→そしてまた通常の動きをする→振り当たり→加速する→元の動きに戻る。というような繰り返しが記録された例です。
こんな感じで、音を波形という形で見ることで時計の中でどんなことが起こっているのか?を診断する前に仮説を立ててみたりします。
実際にはケースを開けてみないと分からないというのはその通りなのですが、より多くの情報をもって時計の不具合に対する手立てを考えて修理に臨んでいきます。
4.「歩度調整」(ホドチョウセイ)ってどんなことをするの。
「歩度調整」(ホドチョウセイ)とは呼んでその名の通り、進み方を調整するということです。
今まで見てきたような症状を「時計の音」から推測し、その原因を突き止めていく。
どこの部位の調子が悪いのかを見極めてメンテナンスしていく。
実際にはどんなことをするのかが分かりにくいと思いますので、簡単に要点をまとめてみます。
・早く進むようであれば進み方をセーブする。
・遅く進むようであれば進み方を早くする。
とまぁ、文章にするとなんだそんなことか。と思うのですが、実際には微調整を繰り返して最適なポイントをみつけていきます。
微調整する。
↓
測定器にかる。
↓
また微調整をして様子を見る。
1回の調整でバシッと決まることもあれば、何度か繰り返してもうまく収まらないこともあります。
また、進み方にブレがあるときや機械内部でがたつきなどが見られる場合には、何度か細かい作業を繰り返して、正確に歯車やパーツが噛み合うように調整してあげることを行います。
私たちが主に診る部分は、テンプの動き方とガンギ車の動き方が多いですが、テンプの動き方は振り角と言って、時計の動きにものすごーく大事。
めちゃめちゃ大事な部分になりますが、このお話はそれこそ長くなるのでまた次回にお話ししたいなと思います。
テンプと振り角のイメージ
ケースが透けてるシースルーの時計をお持ちの方は、もしかしたらこのテンプの動きも見えるかもしれませんので気になる方は毎日よーく観察してみるときっと時計の調子もわかるようになってくるかもしれないですね。(笑)
時計はケースを開ければ精密機器です。愛着のある時計の不具合改善や修理が必要になった時には、やはり熟練の腕があれば安心ですよね!
前回の記事はコチラ>>>【時計職人に聞く】Part.6 その時計・・・本物?それともニセモノ?
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