

ミニッツリピーターとは?仕組み・価格・価値を徹底解説

ミニッツリピーターという言葉を聞いたとき、多くの方は「とても高価な時計」「特別な人のための存在」と感じるかもしれません。しかしその本質は、価格や希少性だけで語れるものではありません。
暗闇の中でも音だけで時を知るために生まれ、数百年にわたり職人の手で磨き上げられてきたこの機構は、機械式時計という文化の到達点とも言える存在です。ミニッツリピーターほど人の心を静かに揺さぶる時計は多くありません。本記事では、その仕組みと価値を、できる限りわかりやすくお伝えします。
ミニッツリピーターとは何か?

ミニッツリピーターとは、時刻を音で知らせるために生まれた、機械式時計の中でも最も高度な機構のひとつです。
文字盤を見ることなく、耳だけで「何時何分か」を知ることができるこの仕組みは、実用性を超えた思想と技術の結晶とも言えます。長い歴史の中で限られた職人だけが扱うことを許され、現在では芸術品としても評価される存在となりました。
機械式時計の本質を理解するうえで欠かせない機構であり、その魅力と価値を知ることは、時計文化そのものを知ることにもつながります。
本章ではその全体像を、徹底解説します。
ミニッツリピーターの簡単な定義
ミニッツリピーターとは、時計内部に組み込まれた複雑な機構によって、時刻を音で知らせる機械式時計のことです。
ケース側面のレバーやボタンを操作すると、内部のハンマーがゴングと呼ばれる金属線を叩き、低音と高音を使い分けながら時と分を知らせます。低い音で「時」、高低の組み合わせで「15分」、高い音で「分」を表現するのが基本構造です。
視覚に頼らず時間を把握できる点が最大の特徴であり、現代においては実用性よりも、技術力と美学を体現する存在として評価されています。
なぜ「ミニッツ」と呼ばれるのか
ミニッツリピーターという名称は、この機構が「分」まで正確に音で知らせる点に由来します。
初期のリピーター機構は時刻のおおよその把握が目的で、時や15分単位までしか知らせないものも存在しました。しかし技術の進化とともに、分単位の情報を正確に再現することが可能になり、現在のミニッツリピーターへと発展していきます。
分を音で表現するためには極めて精密な制御が必要となり、わずかな誤差も許されません。
そのため「ミニッツ」という言葉には、精度への挑戦と職人の誇りが込められていると私は考えています。
ミニッツリピーターの歴史
ミニッツリピーターの起源は、18世紀の懐中時計時代にまで遡ります。
照明が十分でなかった当時、暗闇の中でも時刻を知るために音で時間を知らせる仕組みが求められました。貴族や王侯貴族の要望を受け、時計師たちは試行錯誤を重ね、やがて分単位まで知らせる高度な機構を完成させます。その技術は腕時計へと受け継がれますが、小型化による難易度は飛躍的に上がりました。
今日に至るまで、ミニッツリピーターは時計製造技術の象徴として、特別な位置を占め続けています。
ミニッツリピーターの仕組みをわかりやすく解説

ミニッツリピーターの価値を理解するためには、その複雑な仕組みを知ることが欠かせません。一見すると小さな腕時計の内部には、時刻を正確に音へと変換するための精密な装置が幾重にも組み込まれています。
そこには偶然や装飾的な要素は一切なく、すべてが必然として設計されています。本章では、専門知識がなくても理解できるよう、音で時間を知らせる構造と、その背後にある思想を丁寧に紐解きます。
ミニッツリピーターが特別視される理由を、仕組みから徹底解説します。
音で時間を知らせる基本構造
ミニッツリピーターの基本構造は、時刻情報を機械的に読み取り、それを音として出力する点にあります。
ケース側面に設けられたレバーやボタンを操作すると、香箱とは別系統の動力が作動し、ハンマーとゴングが連動します。この際、時計内部では現在の時刻を示すカムやラックが正確に位置決めされ、その情報に基づいて音の回数が制御されます。
重要なのは、音を鳴らすだけではなく、常に同じ順序と間隔で再現することです。多くの時計技師と会話を重ねてきましたが、この安定性こそが、ミニッツリピーターの完成度を左右する核心だと感じています。
時・15分・分をどう鳴らし分ける?
ミニッツリピーターでは、異なる音を使い分けることで、時刻を明確に伝えています。
まず低音が「時」を表し、続いて高音と低音を連続させた音が「15分単位」を示し、最後に高音のみで「分」を知らせます。この順序は必ず守られ、聞き手は自然と時刻を読み取ることができます。
たとえば10時23分であれば、低音10回、15分音1回、高音8回という具合です。音の高さや余韻はモデルごとに異なり、そこに個性が生まれます。
音を設計する行為は、時計師の感性と経験が最も表れる部分だと言えるでしょう。
内部機構がなぜここまで複雑なのか
ミニッツリピーターの内部機構が極端に複雑なのは、時刻を正確かつ美しく音へ変換するという、非常に難度の高い要求を満たすためです。
時刻を示す歯車列とは別に、音専用の制御装置を持ち、それらが干渉せず確実に連動しなければなりません。さらに、音が鳴っている間も時計としての精度を保つ必要があります。
この条件を満たすため、部品点数は数百に及び、わずかな調整不足が音の乱れにつながります。時計技師から時計愛好家までもが、この複雑さこそがミニッツリピーターの価値だと口を揃えて語ります。
ミニッツリピーターはなぜこんなに高価なのか?

ミニッツリピーターの価格を知り、驚かない人はほとんどいません。一般的な高級時計とは明らかに次元が異なり、その理由が分からなければ、ただの「高すぎる時計」に見えてしまうでしょう。
しかし価格の背景には、明確で合理的な理由が積み重なっています。素材やブランド名だけで説明できるものではなく、そこには人の手、時間、技術、そして哲学が深く関わっています。
本章では、なぜミニッツリピーターがこれほど高価なのかを、現実的な視点から徹底解説します。
価格帯の目安(数千万円〜)
ミニッツリピーターの価格帯は、一般的に数千万円から始まり、モデルによっては億単位に達します。この水準は、永久カレンダーやトゥールビヨンといった他の複雑機構と比べても突出しています。
私自身、多くの実物を見てきましたが、同じミニッツリピーターであっても、価格には大きな幅があります。それはケース素材や仕上げの違いだけでなく、音の完成度や設計思想、製作本数の少なさが反映されているからです。
価格は単なる数字ではなく、その時計が背負ってきた工程と責任の重さを表しています。
職人技術が価格を押し上げる理由
ミニッツリピーターが高価になる最大の理由は、圧倒的な職人技術にあります。
組み立てはもちろん、音の調整は完全に手作業で行われ、数値化や自動化がほぼ不可能な領域です。ハンマーがゴングを叩く強さ、角度、余韻の残し方は、職人の感覚に委ねられます。
職人技術において、一音に納得がいかなければ、すべてを分解し、最初からやり直すことも珍しくありません。この膨大な時間と集中力が、価格に反映されるのは極めて自然なことだと感じています。
量産できない構造的な理由
ミニッツリピーターは、その構造上、量産という考え方が成立しません。
内部機構が極めて複雑で、部品点数が多いだけでなく、音という個体差の大きい要素を扱うためです。たとえ同じ設計図を用いても、ケース素材や微細な組み立て誤差によって音は変化します。
そのため、一つひとつの時計に個別対応が必要となり、効率化を図る余地がほとんどありません。結果として年間製作本数はごくわずかに限られます。
この希少性は意図的なものではなく、構造そのものが生み出している必然なのです。
ミニッツリピーターの魅力と価値

ミニッツリピーターの魅力は、数値やスペックでは語り尽くせません。
それは所有した瞬間に分かるものでもなく、静かな時間の中で、ふとした動作によって立ち上がるものです。音を通じて時を感じる体験は、現代の効率的な生活とは正反対の価値観を私たちに示してくれます。
この機構が長い年月を経てもなお特別視され続ける理由は、実用性を超えた精神的な満足にあります。
本章では、ミニッツリピーターが持つ本質的な魅力と、その価値の正体を徹底解説します。
視覚ではなく「聴覚」で楽しむ時計
ミニッツリピーター最大の特徴は、視覚ではなく聴覚によって時間を味わう点にあります。
文字盤を確認するという行為ではなく、レバーを引き、音に耳を澄ませることで時を知るという体験は、極めて私的で静かなものです。そこには他者に見せるための要素はほとんどなく、所有者だけが感じ取れる贅沢があります。
例えば、夜の静かな空間でミニッツリピーターを鳴らす瞬間をイメージするならば、その空間は芸術へと変わります。
音は一瞬で消えますが、その余韻は深く心に残り、時間そのものへの向き合い方を変えてくれます。
芸術品としての評価
ミニッツリピーターは、もはや時計という枠を超え、芸術品として評価される存在です。
音の響き、機構の美しさ、仕上げの精度、そのすべてが調和して初めて完成と呼べるからです。多くの美術館やコレクターがこの機構に強い関心を寄せるのも、工業製品ではなく、人の手と感性が生み出した作品だからでしょう。
数多くの名作を見てきましたが、優れたミニッツリピーターには、設計者や時計師の思想が確かに宿っています。
それは時代を超えて評価される、普遍的な価値だと断言できます。
ステータス性とロマン
ミニッツリピーターが持つステータス性は、単なる価格の高さから生まれるものではありません。
それを理解し、楽しむためには、時間と経験、そして深い関心が必要です。そのため所有者は自然と限られ、結果として特別な存在となります。
しかし本当の魅力は、そこに宿るロマンにあります。何百年も前に生まれた発想が、現代においても最高峰の技術として受け継がれている事実に、私はいつも敬意を抱きます。
ミニッツリピーターは、人が時間とどう向き合ってきたかを静かに物語る存在なのです。
ミニッツリピーターはどんな人に向いている?

ミニッツリピーターは、すべての人に向けて作られた時計ではありません。
むしろ、その価値を正しく理解し、楽しめる人はごく限られています。利便性やコストパフォーマンスを求める視点では、この時計の本質には辿り着けないでしょう。
本章では、ミニッツリピーターがどのような価値観を持つ人に響くのか、そしてなぜ万人向けではないのかを、率直に解説します。選ばれた人のための時計である理由が、自然と見えてくるはずです。
実用目的の人には向いていない理由
ミニッツリピーターは、日常生活の利便性を高めるための時計ではありません。
正確な時刻を素早く知りたいのであれば、現代にはもっと適した選択肢があります。操作には静かな環境が求められ、音を鳴らす行為そのものが周囲への配慮を必要とします。さらに、構造が非常に繊細なため、気軽に扱える存在でもありません。
多くの所有者にお会いいたしましたが、実用性を期待して手にした人ほど、戸惑いを感じる傾向があります。
この時計は、効率よりも「向き合う時間」を大切にする人のためのものです。
向いている人の特徴
ミニッツリピーターに向いているのは、時間を単なる情報としてではなく、体験として味わいたい人です。
時計の内部構造や歴史、そこに込められた思想に興味を持ち、静かな時間を楽しめる感性が求められます。また、所有すること自体よりも、その背景を理解することに価値を見いだせる人ほど、この時計を深く愛する傾向があります。
真の愛好家たちは、決して派手に語ることなく、音に耳を澄ます瞬間を何より大切にしています。
ミニッツリピーターは、成熟した価値観を持つ人にこそふさわしい存在です。
初めて高級時計を買う人向けか?
結論から言えば、ミニッツリピーターは初めての高級時計としておすすめできる存在ではありません。
価格や扱いの難しさ以前に、この機構の価値を十分に理解するためには、ある程度の経験が必要だからです。まずはシンプルな機械式時計から始め、時計との関係性を深めていく過程を経ることで、ミニッツリピーターの凄さが自然と見えてきます。
この機構やその価値は、急いで理解するものではありません。
最終的に辿り着くべき場所として、この時計は存在しているのです。
ミニッツリピーターを搭載している時計を紹介

ミニッツリピーターという機構は、どのブランドでも簡単に扱えるものではありません。そのため、実際に搭載モデルを目にする機会は極めて限られています。
ここでは、長年この分野を牽引してきた名門が手がけた代表的な2本を取り上げ、その魅力と思想を見ていきます。単なる高級時計の紹介ではなく、なぜこれらが特別なのかという視点で読み進めていただければと思います。
ミニッツリピーターの完成形とも言える存在を、見ていきましょう。
オーデマ・ピゲ CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ミニッツリピーター スーパーソヌリ 26395BC.OO.D321CR.01
このモデルは、オーデマ・ピゲが長年培ってきた音響技術と、現代的なデザインを高次元で融合させた一本です。
CODE 11.59というコレクションは、クラシックと革新の両立をテーマとしており、ミニッツリピーターという伝統機構を極めて洗練された外観に落とし込んでいます。
特筆すべきは「スーパーソヌリ」と呼ばれる音響構造で、ケース全体を共鳴体として活用することで、腕時計とは思えないほど伸びやかな音色を実現しています。
私は実際にこの音を聞いた際、その明瞭さと余韻の美しさに深い感銘を受けました。技術と美意識が静かに結実した、現代ミニッツリピーターの象徴的存在です。
オーデマ・ピゲ ロイヤルオーク ミニッツリピーター スーパーソヌリ 特別限定20本 26591PT.OO.D002CR.01
ロイヤルオークという象徴的なデザインに、ミニッツリピーターを組み合わせたこのモデルは、まさに挑戦そのものと言えます。
八角形ベゼルとスポーティな造形を持つロイヤルオークは、音響面では決して有利とは言えません。しかしこの特別限定モデルでは、ケース素材や内部構造を徹底的に見直し、スーパーソヌリ機構の音色を最大限に引き出しています。
世界限定20本という極端な希少性も相まって、これは単なる高級時計ではなく、ブランドの技術力を示す声明文のような存在です。
伝統と革新を真正面からぶつけた結果生まれたこの一本には、オーデマ・ピゲの矜持が確かに感じられます。
まとめ|ミニッツリピーターを知ることは時計の本質を知ること

ミニッツリピーターを理解するということは、単に特別な機構を知ることではありません。
そこには、人が時間とどのように向き合ってきたのか、そして機械に何を託してきたのかという、時計文化の本質が凝縮されています。音で時を知るという行為は、効率や即時性とは無縁であり、だからこそ現代において強い意味を持ちます。
時計製造に置いてミニッツリピーターほど、作り手の思想と使い手の感性が深く重なり合う時計は多くありません。価格や希少性の奥にある価値に目を向けたとき、この機構は初めて本当の姿を現します。
ミニッツリピーターは、時計を「道具」ではなく「文化」として味わうための、ひとつの到達点なのです。
この記事の監修者

佐藤高雅(さとうたかまさ)
株式会社ジェムキャッスルゆきざき ECソリューション室副室長
1996年生まれ。高校在学中に煌びやかな高級腕時計やジュエリーに興味を持つ。
大学在学中に某日本メーカ時計正規店でアルバイトを経験し卒業後、店舗販売員として2019年ジェムキャッスルゆきざきに入社。
3年間販売員を経験した後、時計の知識や文章力を買われECソリューション室へ異動。
以後ゆきざきサイトの文章やブログ記事、デザイン関連を統轄しており、メディア広報室立ち上げ時にはYouTubeレギュラー出演やニュース番組、中国系SNSにも出演する。
初めて購入した腕時計は、23歳でブレゲのマリーン2。
婚約時計はペアでジャガールクルトのレベルソ。
ランゲ&ゾーネ ランゲ1を手に入れるものの、自分には早すぎたと手放す。
40歳になったら記念で購入予定(理想)
好きなブランドは、ジャガールクルト・ランゲ&ゾーネ・FPジュルヌ。時計業界歴7年。
■経歴
2019年 株式会社ジェムキャッスルゆきざき/新卒
2021年 メディア広報室/設立
2022年 ECソリューション室/副室長
■得意領域
WEBライター
高級腕時計全般
■保有資格
Google アナリティクス認定資格(GAIQ)
ジュエリーコーディネーター




